
居間の戸を開けると、まず目に入るのは石炭ストーブの火だった。
石炭がゆっくり燃えて、赤い色がゆらゆら揺れている。
ときどき小さくはぜる音がして、そのたびに火が少しだけ強くなる。
その上には、決まってやかんがのっていた。
丸いふたのすき間から、白い湯気が立ちのぼる。
天井に向かってまっすぐ伸びていくその様子を、ぼくは飽きずに見ていた。
あの湯気を見ると、不思議と安心した。
家の中がちゃんと動いている、あたたかい心臓みたいだと思っていた。
冷えきった手をこすりながら、コップを受け取る。
少し熱すぎて、すぐには飲めない。
両手で持つだけで、指先が生き返る。
息を吹きかけて、少しずつ口に運ぶ。
のどを通ると、体の奥までじわっとあたたかくなる。
それだけで、外の寒さなんてどうでもよくなる。
小学四年生のぼくは、雪がどれだけ積もっても、
家に戻ればこの火とお湯があると思っていた。
だから冬は、こわくなかった。
赤い火と立ちのぼる湯気が、ちゃんと守ってくれている気がしていた。
明るい気持ちになる言葉:
ぬくもりは、いつも手の届くところにある。

