今日の出来事などを

一面の雪の白。石炭が燃える赤。それが私の冬の色。

子どものころの冬は、今よりずっと厳しかった気がする。吐く息は白く、廊下は足が痛くなるほど冷えていた。それでも、不思議と心細さはなかった。雪が降ると、町は急におとなしくなる。遠くの音まで吸いこまれて、自分の足音だけが残る。家に戻れば、居間のま...
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白い道を進んだ先には、希望のように赤い炎が揺れている。

学校の帰り道は、朝よりもまぶしかった。踏み固められた雪が光って、目を細めないと前が見えない。手袋の中の指は冷えきっているし、耳もひりひりする。息を吐くたび、白い煙みたいになる。でもぼくは、早く帰りたかった。頭の中には、あの赤い色が浮かんでい...
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雪の日の台所には、あたたかい湯気があった

居間の戸を開けると、まず目に入るのは石炭ストーブの火だった。石炭がゆっくり燃えて、赤い色がゆらゆら揺れている。ときどき小さくはぜる音がして、そのたびに火が少しだけ強くなる。その上には、決まってやかんがのっていた。丸いふたのすき間から、白い湯...
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音のない世界。雪の日の静寂に癒やされる。

朝、ふと目を開けた瞬間に「いつもとちがう」と思った。部屋の中がほんのり白くて、空気まで光っているみたいだった。それに、音がない。近所の車のエンジン音も、遠くの工場の機械の音も聞こえない。耳が変になったのかと思うくらい、シーンとしている。布団...
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何でもない一日が、心に残る理由

「今日」という言葉は、あのころの私にとって、ただの一日だった。朝起きて、学校に行って、帰ってきて、ごはんを食べて、眠る。それが「今日」だと思っていた。でも、今思い出す「今日」は、少しちがう。ランドセルを放り投げて、玄関で靴をそろえなかったこ...
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母の後ろ姿。そこには、私の知らない時間が流れていた。

台所で料理をしているお母さんの後ろ姿を、ぼくはぼーっと見ていた。フライパンからいいにおいがして、包丁のトントンという音が聞こえる。いつもと同じ光景なのに、なぜか今日は目が離せなかった。「あれ?」と思った。お母さんの背中が、前より少し小さく見...
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ギリギリとねじを巻く音が、静かな部屋に響きわたる。

家にあった時計は、電池で動くような便利なものではなかった。大きな木の箱に収まった、背の高い柱時計。そして、その時計を動かすためには、定期的に「ねじ」を回さなければならなかった。あの重たい金属のねじを、ゆっくり、ゆっくり回す。ギリギリギリギリ...
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「ただいま」と「お帰り」のあいだにある時間

玄関の引き戸を開けて、いつものように「ただいま」と声を出した。その声は、意識しなくても自然と出る。まるで呼吸のように、体に染み込んだ習慣だ。少し間をおいて、台所の方から母の声が返ってくる。「お帰り」たったそれだけのやり取りなのに、胸の奥のど...