
朝、家のドアが風に揺れる音で目が覚めた。
北風は鋭く、まるで冬そのものが家の周囲を歩き回っているかのようだった。
布団の中にいても、空気の冷たさが伝わってくる。
カーテンを開けると、雲一つない冬晴れの空が広がり、澄み切った青が目に沁みる。
冬の朝の光は強すぎず、しかし迷いがなく、すべてをくっきりと照らしていた。
正午頃には気温が十一度になるというが、時間とともに下がる予報を思い、外に出るならマフラーと手袋は欠かせないと感じた。
首元を守るものを手に取った瞬間、思いがけず若い頃の記憶が胸に広がった。
二十歳前後、中学時代の同級生だった女性と文通をしていた頃のことだ。
北海道と東京を行き来する手紙には、雪の便りや都会の雑踏が丁寧に書かれていた。
お正月に帰省した際に会い、彼女から手編みのマフラーを贈られた。
長い髪と背の高さが印象的で、冬の空気の中に立つ姿は、今でも鮮やかに思い出せる。
そのマフラーを首に巻き、茅ヶ崎から新橋、神田へと通勤していた頃、東海道線の一時間は驚くほど短かった。
車窓に流れる冬の景色を眺めながら、心だけは温かく満たされていた。
今日の北風は冷たいが、その風があの頃の記憶を運んできたことで、胸の奥に静かなぬくもりが戻ってきた。
冬は厳しい季節だが、同時に人の心を深く内側へ向かわせる。
そんなことを感じながら迎えた、冬晴れの朝だった。
明るい気持ちになる言葉
冬の記憶は、今の心を静かに温めてくれる。

