
給食のワゴンが教室に入ってくると、ほんのり海のような香りが漂ってきた。
その匂いを感じた瞬間、私は「あ、今日はわかめごはんだ」とすぐに分かった。
その日は、なぜか気持ちが少しだけ明るくなる。
わかめごはんの日は、クラスの空気がどこかやわらかかった。
子どもだった私は、
その理由をうまく説明できなかったけれど、「今日はなんだかいい日だな」と感じていた。
白いごはんに混ざる、細かく刻まれたわかめ。
それだけなのに、どうしてあんなにおいしかったのだろう。
大人になってから思う。
わかめごはんは、派手な給食ではない。むしろとても素朴なメニューだった。
でも、その素朴さが、子どもの心にはちょうどよかったのかもしれない。
派手ではないけれど、しみじみおいしい。
そんな味が、昭和の給食には多かった気がする。
私はスプーンでごはんをすくう。
わかめとごはんを一緒に口に運ぶと、ほんのり塩の味が広がる。
その味をゆっくり噛みながら、ふと教室を見渡す。
みんな静かに食べている。
でも、その顔はどこか嬉しそうだった。
「わかめごはん、好き?」
「うん、普通のごはんより好き」
「なんかさ、いっぱい食べちゃうよね」
そんな会話をしながら、私たちはゆっくり給食を楽しんでいた。
明るい気持ちになる言葉:
素朴なものほど、心に長く残る。

