
よもぎ餅の香りは、どこか土の匂いを含んでいた。
外は雪景色でも、よもぎの緑を見ると春を感じる。不思議な安心感があった。
石炭ストーブの赤い火と、よもぎ餅のやわらかな緑。
色の対比まで、今も鮮やかに思い出せる。
子どもの頃は気づかなかったが、よもぎを摘み、餅に練り込む手間があったはずだ。
母や祖母の時間が、その一口に詰まっていたのだろう。
手間をかけるということは、思いを込めるということ。
今になって、そのありがたみが胸に響く。
網の上でゆっくりと焼く。焦げやすいから目を離さない。
少しだけ焼き色がついたら、あんこを添える。
甘さとほろ苦さのバランスが絶妙だった。
一口かじると、外は香ばしく中はやわらかい。頬が自然とゆるむ。
「よもぎの匂い、好き?」
「うん、なんか草みたいだけど、おいしい」
「それがいいんだよ」母はそう言って笑った。
あの笑顔を思い出すたび、胸の奥に小さな灯りがともる。
明るい気持ちになる言葉:
懐かしさは、心をやわらかくする。
