
ランドセルを開くと、ふわりと牛革の落ち着いた匂いが広がる。
中は驚くほどすっきりしている。
父の話の通り、教科書と筆入れだけを入れていた時代の名残のように、仕切りも飾りもない。
父は放課後、家に帰ると土間にランドセルを置いたという。
中身はその日のうちに出し、翌朝またきちんと入れ直す。
その繰り返しが毎日のリズムだった。
物が少ないからこそ、ひとつひとつを大切に扱う習慣が自然と身についていたのだろう。
ちゃぶ台のある居間では、湯気の立つ味噌汁の匂いが漂う。
母の「おかえり」の声に、父はほっとしながら教科書を開いたという。
牛革のランドセルは、そんな家族のぬくもりのすぐそばで、静かに一日を終えていた。
私はその空っぽに見える内側を撫でながら思う。
たったそれだけの中身でも、父の毎日は十分に満たされていたのだと。
少ない持ち物の中に、豊かな時間が詰まっていた。
明るい気持ちになる言葉:
思い出は、心の灯り

