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豆腐屋のラッパが連れてくる夕暮れ

豆腐屋のラッパが連れてくる夕暮れ
今日も雲ひとつない穏やかな土曜日。
朝から冷たい空気が澄み切っていて、窓を開けると冬らしい静けさが胸の奥まで入り込んでくる。陽射しは柔らかく、どこか懐かしい匂いを含んでいるように感じられた。

こういう日には、決まって少年時代の記憶が、理由もなく心の奥から浮かび上がってくる。

夕方になると、遠くから「ぷぅー、ぷぅー」と、少し間の抜けたような、それでいて優しい音色が聞こえてくる。
豆腐屋のラッパだ。

自転車の後ろに大きな木箱を積み、白い湯気をほのかに立てながら、ゆっくりと住宅街を回ってくる姿を、私は何度も家の前で待ったものだった。

その音を聞いた瞬間、胸の奥が小さく高鳴り、鍋を持って玄関を飛び出す準備をする。

鍋の底は少し歪んでいて、持ち手は熱で変色していたけれど、それが当たり前だった。

母に「気をつけて行ってきなさい」と声をかけられ、私は少し誇らしい気持ちで鍋を抱えた。
豆腐一丁を買うだけの用事なのに、まるで大役を任されたような気分だった。

豆腐屋のおじさんは、いつも無口で、必要な言葉しか話さなかったけれど、その手つきはとても丁寧だった。
水の中から白い豆腐をすくい上げ、鍋に収める動作を、私は食い入るように見つめていた。

家に帰る道すがら、鍋から伝わる温もりが、冬の冷たい空気の中で不思議と心まで温めてくれた。

今では、スーパーで簡単に手に入る豆腐だけれど、あの夕方のラッパの音と一緒に思い出す豆腐は、今も特別な存在だ。

今日という穏やかな一日が、そんな記憶をそっと呼び戻してくれたことに、静かな感謝を覚えながら、朝を迎えている。

明るい気持ちになる言葉
思い出は、今の心をそっと温めてくれる。

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