
醤油が焦げる匂いを思い出すと、懐かしさで胸がいっぱいになる。
あの香りは、ただの匂いではない。
家族がそろっている安心の証だった。
寒い外から帰ってきても、その匂いを嗅げば「帰る場所がある」と心から思えた。
人の記憶は不思議だ。
写真よりも、言葉よりも、匂いが一番強く残る。
味噌を塗る母の指先、網の上でぷくっと膨らむご飯粒。
私はその光景を、何度も何度も思い返している。
もしかすると、私はあの頃の時間に、今も支えられているのかもしれない。
母は刷毛のように指を使い、味噌を塗る。
私は横から「もっと塗って」と注文をつける。
妹は「私は醤油!」と譲らない。弟は焦げた部分を欲しがる。
ストーブの火は赤々と燃え、家の中に優しい光を落としていた。
「焦げすぎないようにね」
「ちょっとくらい焦げたほうが美味しいよ!」
「じゃあ、お兄ちゃんのは多めに焼こうか」
母の笑い声と、私たちのはしゃぐ声が混ざり合う。
その音こそが、冬の子守歌だった。
明るい気持ちになる言葉:
香りは、記憶の扉を開ける。

