
移動に時間がかかることを、当時のぼくたちは不便だと思っていなかった。
バスを待つ時間も、自転車で遠回りする帰り道も、全部が日常の一部だった。
バスの中では、知らない大人の会話が聞こえてくる。
自転車では、風の匂いが変わるのが分かる。
徒歩なら、道端の草や小さな虫に気づく。
移動そのものが、体験だった。
今は、速さと効率が当たり前になった。
目的地に着くことが最優先で、途中の景色は流れていく。
でも、あの頃の記憶は、途中の風景ばかりが残っている。
広い道路、遊ぶ子どもたち、夕方の影の長さ。
帰る時間になると、少しだけ胸がざわつく。
「もう少し遊びたい」という気持ちと、「怒られるかもしれない」という不安。
その両方が、今でもはっきり思い出せる。
遠回りだったからこそ、心に残った。
そう思える年齢になった自分が、少しだけ誇らしい。
明るい気持ちになる言葉:
「急がなくても、ちゃんと前に進んでいる」
