
昭和36年。
あの頃の夏は、今よりもずっと濃くて、ずっと近かった。
町内会が用意した大きな白いスクリーンが、空き地にどんと立てられた日のことを、私は忘れない。風に揺れる布の音が、どこか誇らしげだった。
家からゴザを持ち出し、妹と弟の手を引いて向かった。
まだ小さな二人は、遠足のようにはしゃいでいたが、私は少しだけ「兄らしく」歩こうと背筋を伸ばしていた気がする。
上映された映画の題名は思い出せない。
けれど、不思議なことに――
笑い声だけは、今でもはっきりと耳に残っている。
大勢の人が集まり、夜の町がまるでお祭りのように賑わった。
スクリーンの裏に回って観ている人もいて、映像は逆さまなのに、みんな真剣だった。
その光景が妙に可笑しくて、私は何度も振り返ってしまった。
あの頃は、娯楽が少なかった。
だからこそ、一つの映画が町全体を明るくした。
今は何でも手に入る時代だ。
けれど、あんなに「一緒に笑う夜」は、もうなかなかない。
私はあの夜、きっと初めて思ったのだ。
「人が集まるって、いいものだ」と。
それは、映画以上の宝物だった。
明るい気持ちになる言葉
👉「笑い声は、心を照らす小さな灯火(ともしび)」
