
石炭ストーブの上で焼けるお餅の匂いを思い出すと、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
冬の冷たい空気の中で、あの香ばしい匂いはまるで小さな幸せの合図だった。
ぱちぱちと石炭がはぜる音、じりじりと焼ける餅の膨らみ。
あの時間は、ただ待つだけなのに、どうしてあんなに心が満たされていたのだろう。
今思えば、あの頃の贅沢は値段ではなく“時間”だったのかもしれない。
豆餅、あんこ餅、よもぎ餅、そして何も入っていない白いお餅。
どれも特別な材料ではない。
でも、ストーブの上で焼くというだけで、魔法のようにごちそうになった。
便利なトースターもあったはずなのに、わざわざストーブで焼く。
その手間が、冬の思い出をより濃くしていたのだと思う。
網をそっとストーブの上に乗せる。お餅を並べ、じっと見守る。
最初は固いままの白い四角が、少しずつふくらみ、ある瞬間「ぷくっ」と割れる。
焦げ目がつきすぎないように、ひっくり返すタイミングを見極める。
焼きあがったら、醤油をつけ、海苔で巻く。
手が熱くて、指先をふうふうと冷ましながらかじりついた。
「まだ焼けないの?」
「もう少し待ちなさい。焦ると中まで柔らかくならないよ」
母の声は、いつも少し笑っていた。
「ほら、膨らんだ!」
兄妹で声を上げると、母は「やけどしないようにね」と言いながら皿を差し出した。
あの何気ないやり取りが、今も心の中で生きている。
明るい気持ちになる言葉:
あたたかさは、思い出の中で何度でも灯る。

