
昭和の夕方は、いまよりもずっと長かった気がする。
ランドセルを放り出して外へ飛び出すと、土の匂いと、どこかで炊かれている夕飯の煙が混じり合っていた。そんな中、遠くから聞こえてくるのが「カン、カン」と鳴る拍子木の音だった。
あの音を聞いた瞬間、胸が跳ねた。
紙芝居のおじさんだ。
自転車の荷台に木枠の舞台を積んで、ゆっくりとやってくる。
子どもたちはどこからともなく集まってくる。
さっきまでケンカしていたやつも、転んで泣いていた子も、みんな一斉に同じ方向へ走り出す。
おじさんの声は大きくもないのに、不思議と引き込まれた。
「さてさて、今日のお話は――」
物語が始まると、世界が止まる。
夕焼けが濃くなっても、蚊に刺されても、誰も動かない。
あの木枠の中に、勇者も悪者も怪物もいた。
飴玉を一本買うのが、ちょっとした誇りだった。
買えない日もあった。でも、それでもいい。そこにいるだけで楽しかった。
いま思えば、あれはただの紙と絵だ。
けれど、あの時間は本物だった。
みんなで同じ話に息を呑み、同じ場面で笑い、同じ場面で「えーっ!」と叫ぶ。
あんな風に心が揃う瞬間は、大人になってからどれだけあっただろう。
拍子木の音は、夕焼けと一緒に消えていった。
でもあの音は、確かに僕の中で今も鳴っている。
明るい気持ちになる言葉:
時が流れても、あの音だけは心の中で鳴り止まない。
