
近所の魚屋さんが店先でさんまを焼く日がありました。
その日は路地の空気がいつもより賑やかになります。
子どもたちは匂いにつられて集まり、大人たちは「いい匂いだねえ」と立ち話を始めるのです。
私は友だちと一緒に、少し離れた場所からその様子を眺めていました。
そして、私たちの足元には、いつの間にか数匹の猫が集まっていたのです。
みんな同じ方向を向き、まるで作戦会議でもしているような真剣な顔。
誰が一番に飛び出すのか、そんな空気が漂っていました。
突然、一匹の猫が勇気を出して店先に近づきました。
魚屋のおじさんはそれに気づき、「こらこら」と笑いながら追い払います。
猫は逃げながらも、少しも諦めていない様子で、また距離を取って座り直しました。
そのやり取りが可笑しくて、私たちは声を上げて笑いました。
あの頃は、猫も人も、そして子どもも、同じ場所で同じ匂いを共有していました。
誰かの夕食の支度が、路地全体の出来事になっていたのです。
今思うと、不思議なほど人と人との境目がなかった時代でした。
あの笑い声とさんまの煙は、私の心の奥に今もやさしく残っています。
明るい気持ちになる言葉:
「笑った記憶は、いつまでも消えない宝物」
