PR
スポンサーリンク

路地に漂う、夕暮れのごちそう

路地に漂う、夕暮れのごちそう
昭和三十六年の冬の夕方、あの頃の路地には、どの家からも晩ごはんの支度の匂いが流れ出していました。

今のように密閉された家ではなく、木の引き戸や少し隙間のある窓から、湯気と一緒に生活の気配が外へこぼれていたのです。

味噌汁の湯気、煮物の甘い香り、そして七輪で焼くさんまの煙。
その匂いが混じり合い、路地全体がひとつの大きな台所のようでした。

私は学校から帰ると、ランドセルを放り出し、暗くなるまで近所の友だちと遊んでいました。
鬼ごっこで走り回り、息が白くなり始める頃、どこからともなくあの香ばしい匂いが漂ってくる。

「ああ、今日はさんまだな」と、子ども心にも夕食の気配が分かりました。

ある家の前を通ると、縁側のそばで猫がじっと座っているのが見えました。
視線の先には、網の上でじゅうじゅう音を立てるさんま。

しっぽをゆらし、今か今かと狙っているのがおかしく、友だちと顔を見合わせて笑いました。
大人たちの暮らしの中に、子どもと猫が自然に溶け込んでいた、そんな風景でした。

あの頃は何も特別なことなどない日常でしたが、今思い返すと、あの匂いに包まれて育ったこと自体が、どれほど豊かなことだったのだろうと思います。

路地に満ちていたのは、食べ物の匂いだけではなく、家族の温もりや、人と人との距離の近さだったのかもしれません。

明るい気持ちになる言葉
「思い出は、心の中でいつまでも温かい」

タイトルとURLをコピーしました